「悲しきおやじバレリーナ プリマ=ポンナ」

(第一幕)
フランス一有名なバレリーナがいた。名前はプリマ=ポンナ。
小柄で透き通るような白い肌、シルバーの長い髪。美しい女性だった。
両親が共に著名なバレリーナで幼い頃から英才教育を受けた。
7歳で初参加のPRI MA HAMコンクール準優勝。12歳ですでにフランスのトップスターだった。

事件は彼女の二十歳の誕生日に起こった。
季節はずれの大雨にも関わらず、フランス一と言われているププリナシアターは
ポンナの ステージを観たいという客で埋め尽くされていた。
いつも通りステージは大成功に終わり、アンコールの拍手はいつまでも鳴り止まなかった。
ポンナは振り返りもせず会場を後にした。
雨はまだ降り続いていた。
「……こんな会場なんか」
世界を目指すポンナにとって、フランス一の劇場といえども心は満たされなかっ た。
そのときだった。
ブレーキの故障した車がポンナに突進してきたのだった。
ポンナの体は宙に舞った。
「……天狗になっていた私への罰なのかもしれない。」
ポンナは思った。
そして自分が本当にバレエを愛していることに改めて気づいたのだった。
薄れゆく意識の 中でポンナは神に祈った。
「どんな場所であろうと、観客がいなかろうとバレエを踊るその体さえあれば十分です。
神様、どうか私に 生まれかわってもバレエをさせて下さい!」


(第二幕)
田中義雄、妻と娘の三人暮らし。
仕事が嫌いなわけではない。家族に不満があるわけではない。
しかし義雄の心は満たされなかっ た。
心の一部が欠けているように、ふと自分の生き方を疑問に思うときがあった。
45の秋。義雄は激しい頭痛に見舞われた。
医師にもその原因は解明できず、とりあえず入院することとなった。
痛みにうなされる中、 義雄は夢を見ていた。
……華やかな音楽が聞こえる。
気がつくと小さな花がフワフワと舞っていた。そのうち花は蝶となり、消えていっ た。
「蝶はどこへいったのだろう」と探していると、銀色の髪の美しい女性が現れた。
女性は見たこともないような美しい舞いを踊った後 義雄におじぎをし、頬にキスをした。
そして義雄の体に吸い込まれていった……。
義雄、いやポンナは目を覚ました。

ポンナは二通の手紙を書き病院をあとにした。
一通は会社への辞表、もう一通は家族への手紙であった。
「探さないで下さい」と一言 書かれてあった。

(つづく)

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